統計学の中でも特に興味深いツールであるクラスカル・ウォリス検定について、より深く掘り下げてみましょう。この検定は、特にサンプルサイズが小さい場合や、データが正規分布に従わない場合に重宝されます。
クラスカル・ウォリス検定とは何か?
クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)は、簡単に言うと、3つ以上のグループのデータが同じ特性を持っているかどうか(言い換えると、サンプル群の中央値に差があるかどうか)を調べるための統計的手法です。これは、通常の分散分析(ANOVA)の代わりに使われることが多く、特にデータが特定のパターン(正規分布)に従わない時や、データの量が少ない時に役立ちます。
クラスカル・ウォリスの手順
手順① 順位付け
この検定では、全てのデータポイントを一つにまとめて、最小値から順に順位付けします。この順位付けにおいて、同じ値を持つデータ点がある場合は、それらに平均順位を割り当てます。順位付けは、個々のデータ値の代わりに、その相対的な位置を用いるため、異なるグループ間でのデータの分布の違いをより適切に捉えることができます。
手順② 検定統計量 H の計算
ここでの重要なステップは、各グループのランク和を用いて検定統計量H を計算することです。この H 統計量は、グループ間でデータの分布がどの程度異なるかを示す指標となります。この計算により、グループ間でのデータのバリエーションを数値化することができます。 H統計量は次の式になります。
ここで、R j :j 群の順位の和nj :j 群のデータ数n :すべてのデータ数H は自由度 f =k -1のカイ二乗分布に従います。
手順③ p値の計算と結論の導出
次に、計算された H 統計量に基づいて、p 値を決定します。このp 値は、観測されたデータがグループ間で有意な差がないという帰無仮説の下で生じる確率を示します。p 値が事前に設定された有意水準(通常は0.05)よりも小さい場合、我々は帰無仮説を棄却し、グループ間に統計的に有意な差が存在すると結論付けます。
まとめ
クラスカル・ウォリス検定は、データの分布が正規でない場合やサンプルサイズが小さい場合に特に有用です。しかし、この検定はどのグループが異なるのかを特定することはできません。したがって、有意な結果が出た場合は、どのグループが異なるかを明らかにするための追加のポストホック検定が必要となります。この検定をマスターすることで、より深いデータ分析が可能になり、統計学の理解が一層深まります。
例題を解いてみましょう
例題:ダイエットプログラムの効果比較
3つの異なるダイエット方法A、B、Cの効果を比較する研究を考えます。
ある研究で、3種類のダイエットプログラム(A、B、C)の効果を比較しています。 各プログラムは異なるグループの参加者に適用され、6週間後の体重減少量(kg)が記録されました。
参加者とデータ
プログラムA : 5人の参加者体重減少量: 2.0, 2.1, 1.9, 2.2, 2.3 kg
プログラムB : 5人の参加者体重減少量: 3.1, 3.6, 3.4, 3.0, 3.2 kg
プログラムC : 5人の参加者体重減少量: 1.5, 1.4, 1.6, 1.8, 1.7 kg
クラスカル・ウォリス検定の実施
手順① 順位付け
効果の低い最小のものから順に順位付けしていきます。 順位付けすると、次の表のようになります。
1人目 2人目 3人目 4人目 5人目 プログラムA 7 8 6 9 10 プログラムB 12 15 14 11 13 プログラムC 2 1 3 5 4
手順② 検定統計量H の計算
RA =7+8+6+9+10=40R B =12+15+14+11+13=65RC =2+1+3+5+4=15 よって、Hは次のようになります
手順③ 結論の導出(p値はRを使って後ほど計算します)
p値を出すにはRを使ってあとで算出します。 ここでは表を使った方法で解いていきます。 α=0.05で3群がそれぞれ5の時の棄却限界値は次の表より、5.78になります
H=12.5>5.78なので、帰無仮説(3つの群の母代表値に差は無い)を棄却します。
したがって、結論は3つのダイエットプログラム(A、B、C)間で体重減少量には統計的に有意な違いがあると結論づけることができます。
Rを使ってクラスカルウォリス検定をやろう!
先ほどの例題をRを使って検定してみましょう。 スクリプトは次のとおりです。
# データの準備 data_A <- c(2.0, 2.1, 1.9, 2.2, 2.3) data_B <- c(3.1, 3.6, 3.4, 3.0, 3.2) data_C <- c(1.5, 1.4, 1.6, 1.8, 1.7) # 全データを統合し、グループのラベルを付ける data <- c(data_A, data_B, data_C) group <- factor(c(rep("A", length(data_A)), rep("B", length(data_B)), rep("C", length(data_C)))) # クラスカル・ウォリス検定の実行 kruskal.test(data ~ group) # 結果は自動的に表示されます
Rスクリプトを実行すると次のような結果になります。
H=12.5、p値=0.00193<0.05という結果になりましたので、有意差ありという結果です。 先ほどの手計算の結果と同じですね。
統計検定
2024/2/28
クラスカルウォリス検定とは? 実際にRでやってみよう
統計学の中でも特に興味深いツールであるクラスカル・ウォリス検定について、より深く掘り下げてみましょう。この検定は、特にサンプルサイズが小さい場合や、データが正規分布に従わない場合に重宝されます。 クラスカル・ウォリス検定とは何か? クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)は、簡単に言うと、3つ以上のグループのデータが同じ特性を持っているかどうか(言い換えると、サンプル群の中央値に差があるかどうか)を調べるための統計的手法です。これは、通常の分散分析(ANOVA)の代わりに使われる ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
Rでチューキークレーマー法(Tukey‒Kramer法)をやろう
チューキークレーマー法の基本 チューキークレーマー法(Tukey-Kramer method)は、複数のグループ間の平均値の比較に用いられる統計的手法です。この方法は、F統計量を用いない多重比較なので、特に分散分析(ANOVA)を行わなくても検定することができます。チューキークレーマー法は、「どのグループ間に差があるか」を特定するために使われます。また、チューキークレーマー法は、異なるサイズのサンプルにも適用可能です。 統計的背景 多重比較問題: 複数の比較を行うと、誤った結果(第一種の過誤)が生じる確率 ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
ウィルコクソンの符号付順位和検定(Wilcoxon Signed-Rank Test)とは? 実際にRでやってみよう
ウィルコクソンの符号付順位和検定(Wilcoxon Signed-Rank Test)は、統計学において広く使われているノンパラメトリックな検定方法です。この検定は、特にサンプルサイズが小さい場合やデータが正規分布に従わない場合に有効で、対応する2つのサンプル間の中央値の差異が偶然によるものかどうかを評価するために使用されます。以下では、この検定の基本的な概念、手順、適用例、注意点を初学者向けに詳しく解説します。 ウィルコクソンの符号付順位和検定の基本概念とは ウィルコクソンの符号付順位和検定は、2つの関 ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
ブルンナー・ムンチェル検定(Brunner-Munzel Test)とは? 実際にRでやってみよう
ブルンナー・ムンチェル検定は、統計学において重要な位置を占める検定方法の一つです。この検定は、特に順序尺度データや不完全なデータに対して有効であり、標準的なt検定やANOVA(分散分析)が適用できない場合に役立ちます。 ブルンナー・ムンチェル検定の基本 ブルンナー・ムンチェル検定は、非パラメトリックな統計的検定方法の一つです。この検定は、特にデータが正規分布に従わない場合や、サンプルサイズが異なる群間での比較に適しています。順序尺度データ(例:評価が1から5までのスケールで行われる場合)や、不完全なデータ ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
マンホイットニーのU検定とは? 実際にRでやってみよう
マンホイットニーのU検定(またはウィルコクソンの順位和検定とも呼ばれます)は、非パラメトリック統計手法の一つで、二つの独立したグループ間で中央値が異なるかどうかを検定する方法です。この検定は、データが正規分布をしていない場合や、サンプルサイズが小さい場合に特に有効です。 検定の基本ステップ 1.データの準備: 二つの独立したサンプル(グループAとB)を用意します。 2.データのランク付け: 両グループのデータを合わせ、それらに対してランク(順位)を付けます。最も低いデータには1、次に低いデータには2という ...
ReadMore
回帰分析
2024/4/26
R言語で始めるRidge(リッジ)回帰:理論から実践まで【初心者向けガイド】
はじめに リッジ回帰は線形回帰モデルの一種で、予測変数間の多重共線性を扱いやすくするために正則化項を導入します。この記事では、R言語を使用してリッジ回帰を行う方法を、理論の説明から具体的なコードの実行まで段階的に解説します。 リッジ回帰の基礎 リッジ回帰(Ridge Regression)は、回帰分析において共線性を緩和し、モデルの過学習を防ぐために導入される技法です。具体的には、損失関数にL2正則化項(係数の二乗の和)を加えることで、係数の絶対値を抑え、より一般化されたモデルを生成します。 データの生成 ...
ReadMore
回帰分析
2024/4/26
R言語でLASSO回帰(ラッソ回帰)をマスター! 初心者でも理解できる実践ガイド
はじめに LASSO回帰(らっそかいき)は、機械学習でよく用いられる線形回帰モデルの一種です。LASSO回帰は、過学習を防ぎ、モデルの解釈性を高めるという特徴を持ちます。近年、データ分析や予測モデル構築において、LASSO回帰は非常に重要な役割を果たしています。 このブログ記事では、R言語を用いたLASSO回帰の実践的な方法を解説します。初学者の方でも理解しやすいように、基礎的な説明から具体的な操作手順まで、丁寧に説明していきます。 L1正則化とは? L1正則化は、損失関数に対して係数の絶対値の和を加える ...
ReadMore
R基礎
2024/3/25
R言語入門:for文、if文、while文の使い方
R言語はデータ分析や統計計算に広く使用されるプログラミング言語です。初心者にとって、for文、if文、while文の理解はプログラミングの基礎を学ぶ上で非常に重要です。ここでは、これらの基本的な制御構造について説明します。 for文の書き方 for文は、指定された回数だけコードブロックを繰り返し実行するために使用されます。R言語でのfor文の構文は以下の通りです for (変数 in シーケンス) { # 実行するコード } 例:1から5までの数を印刷する for (i in 1:5) { print(i ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
クラスカルウォリス検定とは? 実際にRでやってみよう
統計学の中でも特に興味深いツールであるクラスカル・ウォリス検定について、より深く掘り下げてみましょう。この検定は、特にサンプルサイズが小さい場合や、データが正規分布に従わない場合に重宝されます。 クラスカル・ウォリス検定とは何か? クラスカル・ウォリス検定(Kruskal-Wallis test)は、簡単に言うと、3つ以上のグループのデータが同じ特性を持っているかどうか(言い換えると、サンプル群の中央値に差があるかどうか)を調べるための統計的手法です。これは、通常の分散分析(ANOVA)の代わりに使われる ...
ReadMore
統計検定
2024/2/28
Rでチューキークレーマー法(Tukey‒Kramer法)をやろう
チューキークレーマー法の基本 チューキークレーマー法(Tukey-Kramer method)は、複数のグループ間の平均値の比較に用いられる統計的手法です。この方法は、F統計量を用いない多重比較なので、特に分散分析(ANOVA)を行わなくても検定することができます。チューキークレーマー法は、「どのグループ間に差があるか」を特定するために使われます。また、チューキークレーマー法は、異なるサイズのサンプルにも適用可能です。 統計的背景 多重比較問題: 複数の比較を行うと、誤った結果(第一種の過誤)が生じる確率 ...
ReadMore