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マクネマー検定(McNemar's test)とは? 基本をわかりやすく解説します

2023年10月18日

マクネマー検定(McNemar検定)は統計学の中でも特にカテゴリカルデータを扱う場合に使用される検定方法の一つです。統計学とはデータの背後にあるパターンや関連性を理解し、それを数学的に表現する学問ですが、マクネマー検定はその中でも「関連する2つのカテゴリ間で変化があったかどうか」を評価するのに役立ちます。

マクネマー検定って具体的にどんな時に使うの?

マクネマー検定は主に「ペアになったデータ」における変化を検証する時に使用されます。ここで言うペアになったデータとは、例えばある治療を受ける前後の同じ患者のデータや、あるテストを実施した際の前後の正解数など、関連性のある2つの状況におけるデータを指します。

具体的な例で理解するマクネマー検定

例えば、新しい英語教育プログラムが生徒の成績にどのような影響を与えたかを調べたいとします。あるクラスの生徒たちがプログラム実施前と実施後で英語のテストを受けたところ、次のような結果が得られました。

  • 改善された(プログラム実施前は不合格だったが、実施後は合格になった):15人
  • 悪化した(実施前は合格だったが、実施後は不合格になった):5人
  • 合格状態が維持された(実施前後ともに合格):25人
  • 不合格状態が維持された(実施前後ともに不合格):10人

このデータを2×2の表(クロス表)にまとめると、以下のようになります。

実施後合格実施後不合格
実施前合格255
実施前不合格1510

マクネマー検定では、この表の「オフ対角成分」(つまり、悪化した人数と改善された人数)に着目します。ここで重要なのは、プログラムの効果によって改善された人数と悪化した人数に有意な差があるかどうかを検定することです。

検定の方法

マクネマー検定を行う際には、基本的にオフ対角成分(改善した人数と悪化した人数)に注目しますが、これを評価するには2つの方法があります。一つは補正値を使わない方法で、もう一つは補正値を使用する方法です。

補正なしの方法

まず、補正なしの方法から見ていきましょう。この方法では以下の検定統計量を計算します。

ここで、


は改善した人数、


は悪化した人数を指します。この検定統計量は、自由度が1のカイ二乗分布に従います。得られた検定統計量をカイ二乗分布表と比較して、p値を求めます。このp値が設定した有意水準(一般的には0.05)未満であれば、統計的に有意な差があると判断されます。

補正ありの方法

一方、小標本の場合や標本数が偏っている場合には、より正確な結果を得るために補正値を使用する方法が推奨されます。これは、カイ二乗統計量に対して連続性の補正(ヤーツの補正)を施すもので、以下のように計算します。

この式により計算された検定統計量も、自由度が1のカイ二乗分布に従い、同様にp値を求めます。この補正を行うことで、実際のカイ二乗分布により近いp値を得ることができ、特にサンプルサイズが小さい場合に誤った結論を導くリスクを減らすことができます。

どちらの方法を選ぶべきか

サンプルサイズが大きい(例えば、各セルの期待度数が5以上)場合は補正なしの方法で十分ですが、小さいサンプルサイズや値の偏りが懸念される場合には補正ありの方法を選ぶと良いでしょう。ただし、どちらの方法を選んだとしても、得られたp値に基づいて同じ統計的判断を下すことが多いです。

いずれの方法を選択するにせよ、マクネマー検定はペアデータにおける変化を検証する強力なツールであり、データの解釈に大きな役割を果たします。

マクネマー検定は非常に便利なツールですが、使う際にはいくつかの前提条件があります。例えば、2つのカテゴリ間の変化は独立である必要があります。また、この検定は標本サイズが小さい場合には精度が落ちる可能性があるため、その際には他の検定方法を検討することが推奨されます。

統計学はデータを解釈するための重要なツールですが、その使用方法を正しく理解し適用することが結果の信頼性を高めます。マクネマー検定を始めとする統計的検定を学ぶことで、あなたもより確かなデータ分析が行えるようになるでしょう。

注意点

マクネマー検定を実施する際には、その前提条件と特性を理解し、適切な場面で使用することが重要です。以下に、使用する際のいくつかの注意点を挙げます。

前提条件

  1. ペアの対応があるデータ:マクネマー検定は、同じ対象について2回の測定を行ったペアデータに適用されます。例えば、治療前後の患者の反応や、同じテストを2回受けた学生の成績などです。
  2. 二項変数:データはカテゴリーが2つの二項変数(例: 成功/失敗、有/無、肯定/否定)でなければなりません。
  3. 独立性:各ペアは互いに独立している必要があります。つまり、一つのペアの結果が他のペアに影響を与えてはなりません。

データの特性

  1. サンプルサイズの影響:小さなサンプルサイズでは、補正なしの検定統計量を使用すると第一種の誤り(実際には差がないのに差があると誤って結論づけること)が生じる可能性が高まります。
  2. マージンの不均衡:一方のマージン(例えば、治療前に「成功」が圧倒的に多いケース)が他方に比べて非常に大きい場合、マクネマー検定の結果は信頼性を欠くことがあります。

実施時の考慮点

  1. 結果の解釈:p値が有意水準以下であっても、これは2つの条件間に統計的な差異があることを示しますが、その差の大きさや実践的な意味については別途考慮が必要です。
  2. 補正の判断:連続性の補正を使用するか否かは、データの特性とサンプルサイズを慎重に評価した上で決定します。不適切な補正は結果の解釈を歪める可能性があります。
  3. 検定の限界:マクネマー検定は、ペア間の関係のみを検討するため、3つ以上の関連する条件や時間点には適用できません。

統計的ソフトウェアの使用

実際にマクネマー検定を行う際には、統計的ソフトウェアを利用することが一般的です。これらのソフトウェアは計算過程を自動化し、ユーザーがデータを正確に解釈できるようサポートしますが、どの統計手法を適用するかの最終的な判断はユーザーが行うべきです。

まとめ

マクネマー検定は有力なツールですが、適切な状況で正しく使用された時にのみ、信頼できる結果を提供します。この検定の限界と前提条件を理解し、データの特性に応じて補正を適用することが、統計分析の信頼性を高める鍵となります。

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